研究内容

気象力学と予測理論

中緯度海面水温が温帯低気圧活動に果たす役割について、気象力学の観点から研究を進めてきた。中緯度海洋の大気応答に対する研究上の困難が指摘されていた(Kushnir et al., 2002)頃、応募者は中緯度海面水温分布が気候学的な低気圧活動分布と結びつくこと(図1)を示し、2005年度日本気象学会山本・正野論文賞を受賞した[5; 3, 4, 9]。


また、東シナ海における海洋前線が梅雨に与える影響を共同研究により明らかにした [16]。これらはXie et al. (2002)などとともに、当分野における研究の再活発化に貢献した。 温帯低気圧個々の挙動は社会的にも着目される。しかしながら、従来型の低気圧追跡アルゴリズムはどれも場当たり的で、当該分野に発展をもたらすものとは言い難かった。 そこで、2009年に斬新かつ明晰な追跡法(図2)を提案し[12]、低気圧の分裂・併合、および領域内の運動量・熱の輸送[22, 21]の定量化に成功した。


なお、この手法は他の追跡法と遜色ない性能であり [20, 18, 37]、他分野での利用もなされつつある[39]。 2010年頃から、気象学における従来の力学系理論の枠を超えた予測理論の構築を目指してきた。気象学に対する低次元力学系の援用が下火になっている状況に突破口を拓くため、数学者を約2年間、雇用し、非線形決定論的方程式の低次元化と確率過程による表現の関連(図3)を考察した[40]。その結果を気象学に取り込むことで、現業アンサンブル予報の予報スプレッドが、解析データより統計的に見積もった確率微分方程式の拡散テンソルノルムと対応することを発見した[19, 29]。さらに、熱帯のマッデン・ジュリアン振動の予測可能性も同様の枠組みで議論した[34]。


スケール間相互作用研究

気象学の本質であるスケール間相互作用研究はさまざまなアプローチがある。全球モデルと領域モデルを双方向に結合した双方向ネストシステムを完成させ[11]、同システムを使って、熱帯における降水分布と夏季アジアモンスーンの再現性を向上させる(図4)ことを示した([14];2012年度日本気象学会気象集誌論文賞受賞)。


その後、同システムを各所への適用を試みる中で、しばしば計算安定性の問題に研究が阻まれた。そこで、領域モデルを活用する方法に切り替えた。例えば、海面水温の上昇に伴い、個々の台風は強化されるが、その経路にどのような影響を及ぼされるかは議論がある。領域モデルと全球線形モデルを巧みに利用することで、強化された台風が台風自身をより北へ進ませようとする(図5)ことを明らかにした[32]。


応用気象学

2010年より文部科学省受託研究において、北海道を対象とした地域詳細化計算を分担し[30, 27]、その成果をウェブ上に公開した。また、その結果を使った影響評価研究も共同研究の形で積極的に実施した。例えば、道東の凍土はジャガイモ栽培に重要だが、気候変動に伴う温度上昇で凍土が維持できなくなる(図6)ことを議論した[33]。


これは降雪をもたらす温帯低気圧の通過経路の変化[6, 15, 17]と関連があり、決して自明ではない。同様に、防災の観点からシミュレーションにより雪質変質も議論した[38]。さらに、応用研究に理学的なセンスを取り込むことで新たな提案もしてきた。とくに、計算負荷が高い力学的ダウンスケーリングの計算量を低減する方法を開発した点[24, 31]や、気候変動適応研究には年代ベースではなく温度上昇ベースで議論することを提案した点[30, 38]は特筆できる。さらに、国際支援にも協力してきた。JICA/JST研究プロジェクトでは、ガーナ共和国における気候情報を提供した[25]。また、中国華北における冬小麦の生産高の見積もりにも貢献した[23]。(2,121字)